「おい、越前。後ろ乗ってくか〜?」

「あ、桃先輩」


後ろから自転車で来る桃城に、リョーマは安堵の笑みを漏らした。


「サンキュッ、先輩」


自分よりも広いその背中に飛びつくと、何時もの様に抱き付いてしまう。


「…なぁ、お前…」


(ヤバッ…胸、潰しきってなかったのかな…?!)


「今日は色っぽくねぇ〜?いい匂いがすんだよな〜」

「へっ…?き、気のせい…でしょ」

「そっか〜?ま、いいけどよ」


相手が桃城だから良かった。これで不二や菊丸なら、何かしら調べようとしただろう。


「…桃先輩がまだまだで良かった…」

「何だそりゃ?」

「別に…」


取り敢えずは誤魔化せた事に、ホッと息を吐いて桃城の肩を掴むのだった。








































「おはよーっす」

「…ッス」


桃城とリョーマが部室に入った時、既に他の部員が着替えを始めていた。

二人…もといリョーマの姿を確認した菊丸は、飛びつくように向かって来るのだった。


「おっはよ〜ん、おチビ!今日も可愛いにゃ〜vvv」

「英二先輩…重いっす…!」

「先輩〜俺は無視っすかぁ?」

「え?あぁ、桃もお早う!」


あくまで『リョーマの付属品』としか見られていない事に、桃城は落胆。

いや、ペアと見られているという事だから、それはそれで良い事だが…。


「んん〜?おチビ…何か香水でも付けてる?」


菊丸から発せられた言葉に反応したのは、偉大なる部長。

いつもより眉間の皺が増えている。


「越前。そういった類のものは感心しないぞ」

「俺、付けてないっすよ」


確かに付けてはいなかった。

リョーマは、今朝、従姉の菜々子の匂いでも移ったのだろう…と考えていた。


「でも…何だろ。甘い感じがするよね」


先程まで黙っていた不二が、突然話しに乗ってきた。

リョーマとしては濡れ衣を着せられたようなものだ。


「ん〜…フェロモンっていうのかなぁ…」


不二の口から出た言葉に、レギュラー全員口を開けた。


「ふ、不二…?それっておチビが女の子みたいな言い方じゃん」

「そうっすよ、不二先輩!こいつはちゃーんと男っすよ」


確信を持ちながら、乾いた笑みでリョーマの胸をポンポンと叩く桃城。

リョーマはヤバイ!と思わず目を瞑った。


「………?」

「どうしたの?桃」

「あ〜いや…何か、変な感じが…」


もう一度ポンポンと叩く手に、リョーマは身をよじった。


「やぁ…止めて!」

「「「「「「「「??!」」」」」」」」

「おい…越前?」


一番早くに正気に戻った手塚は、そっとリョーマの肩を抱いた。


「お前…一体どうしたんだ?」

「な…何でもないっすよ…///」


リョーマとしては恥かしい事この上ない。

男(今は女だが…)が胸を触られて感じるなんて…。


「リョーマ君。ちょっとコッチに来て?」


不二に誘われるままに近寄ると、急に羽交い絞めにされるのだった。


「ふぅん…。抱き心地が良くなった。身体も柔らかいみたいだね…」


何かを調べるような不二。

その姿は恐ろしい…いや怖ろしい以外何でもない。


「君…女の子だったっけ…?」

「ち、違うっすよ!そんな訳ないでしょ!?」

「う〜ん、そうだよねぇ。じゃあ、コレ何?」


リョーマのシャツをピラッと捲ると、身体を包んでいる『さらし』を指差した。


「わっ!おチビ、怪我でもしてんの?!」

「菊丸、あれはさらしって言って、武道で女の人が胸を隠す為に巻くものだよ」


乾の説明に、菊丸はへ〜?と首を傾げた。


「でもさ、不二?何でそんなもんをおチビが?」

「そんな事、僕に訊かないでよ」


リョーマ君に直接訊いて、と言わんばかりの台詞に、リョーマは困ってしまった。

そして思い悩んだあげく…さらしを取る事にした。


「………?!」


その姿を黙々と見ていた連中は、驚きを隠せなかった。

リョーマに…胸がある。


「おいおい、越前?!お前、女だったのか!」

「これは…驚きだな」

「ふ〜ん、やっぱりね。変だと思ったよ」

「お、おチビの…胸…?」

「え、越前…」

「……!」

「まさか…どういう事だ?」

「越前…取り敢えず服を着ろ…」


手塚の声に、皆一瞬ハッとした。

何せ今見ているリョーマは女の子な訳で…体が自分達と異なっている訳で…。


「と、兎に角!越前、コレを羽織っていてくれ!!」


急に慌てだした大石に、リョーマは素直に従った。


(ま、これを見たら誰でも驚くよね…)


「…越前、話すんだ」


誤魔化しは許さない。と言うような手塚の眼に、リョーマは仕方ない…と肩を竦めるのだった。










「------って訳で、親父の所為でこんな身体になっちゃったの」

「じゃ、じゃあ、何時元に戻るか分からにゃいの?」

「うん」


特に困った様子を見せないリョーマに、レギュラー陣の方が心配を始めた。

…何せリョーマは学園のアイドル的存在。

女だとバレたら、一般男子の魔の手が襲い掛からないはずがない。


「リョーマ君が心配だね…。ねぇ、皆?僕等でリョーマ君を守ろうか?」

「?!ちょ…、そんないいっすよ!」

「さんせ〜い♪確かにおチビの貞操が心配だもんね!」

「俺も賛成だな」


口々に賛成の意を述べる男達に、リョーマはどうしよう…と、ほとほと困った。


「おチビ!心配しなくっても、俺達が守ってあげるからねん♪」

「はぁ…?」


もうどうでもいいや…と諦めモードに入ったリョーマに反して、男達は意気揚々と今後の事を話し始めた。

可愛くて可憐な、一輪の花の為に…。